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介護ほっとステーション



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小説  訪問看護師物語 「わしは今が一番幸せな」 

 「わしはなあー今が一番幸せな。」

まだ70歳を過ぎたばかりで寝たきりになり、臀部に床ずれが出来ているナミさんがボソッと言った。

「なあ、先生。人は不幸になる人はとことん不幸になるものだなあー」

訪問看護師である私にいつの間にか「先生」と呼んでくれるようになったナマさんが天井を見たまま話しを続ける。

「わしは14歳の時に続いて両親を亡くしたんな。母親は働き過ぎで脳出血で死んでその2年後に林業をしていた父親が木から落ちて死んでしまい、わしは二人の小さい妹を抱えて子守りをしたり農作業を手伝ったりして何とか生きのびたんな。」

ナミさんの訪問看護処置を終えて鞄の整理をしていた私は手を止めてまじまじと彼女の顔を見た。

71歳とはとても見えず肥満顔にシミと皺があり80歳くらいの老婆にみえる。

ナミさんの訪問看護は午後3時から1時間に設定されていた。3時5分前についた私をナミさんは首を長くして待っていた。

私の顔をみるとナミさんは顔いっぱいに笑顔を見せてうれしそうに迎えてくれた。

「困ったことはなかったですか?」との私の問いに

「うん。だんだん元気になってきとるに。だけど今朝から腹が張って苦しい」

「そう、すぐ便を出してあげるからね」

ナミさんは日中は一人。寝たきりになってずーと便秘をしているがへたに下剤をかけると不随意に排便があると始末が出来ず困るので週3回の訪問看護で浣腸して出してあげることにしている。

まずはバイタルサインの測定。血圧が少しずつ下がってきている。

初回訪問時上の血圧が180もあって驚いた。

今は主治医から降圧剤が出され少しずつ安定してきている。

まずは便をだしてあげることにする。

身体を横にして少し温めた浣腸液を肛門から注入する。

しばらくするとそれだけですこしお腹に力を入れてもらうだけで排出することもあるが、たいていは直腸の先に降りてきている硬い便を手でかきだしてあげないと出でこない。

その行為を敵便という。

「敵便するね」と声かけしてゴム手の先にゼリーを塗って肛門に手を入れる。硬くなった便が詰まっている。

片手もり一杯くらいを掻き出すとあとは柔らかい便がスルリと多量に出てきた。

「うーん。とても良い便よ」を声をかける。

「ああー。気持ち良くなった。先生ありがとうね。」

それから微温湯で陰部をきれいに洗い、横になったままで床ずれの処置をして新しいオムツを充てる。

床ずれはもうほとんど治癒しかかっている。

なによりエヤーマットが効果を発揮している。

ありがたい。と私はいつも思う。介護保険制度前は効果的エアーマットがなくまた家族が購入しないと手に入らず、10万円近くしたエアーマットを購入してくれる家族はいなかった。みるみるうちに床ずれが悪くなる人が多かった。介護保険はエアーマットを月600円くらいのリースで貸し出してくれる。エアーマットの普及で床ずれが激減した。

「床ずれもほとんど良くなったから、もうじき訪問入浴に来てもらってお風呂に入れるからね」

入浴ができるまでは全身の清拭をすることになっていて熱いお湯を台所から持ってきて全身清拭をして寝間着の着替えをする。

ここまでやって1時間少しかかるが時間が伸びた分はサービスにしている。

オムツ交換にヘルパーさんに入ってもらっていてこれ以上は介護保険が使えない。

ナミさんが不幸になる人はとことん不幸になるもんだと話しかけてくれた話を聞くことにした。

今日はもうナミさんで訪問は最後。時間を気にしなくてすむ。

 

「それでなあ。妹たちがみんな自立してからわしは人の世話で結婚したんな。そして男の子が生まれてなあ。うれしかったなあ。やっとわしにも幸せが来たとおもったのだけど、その子が少し知恵遅れとわかってなあ。舅や姑にいびられた。

その子が3歳の時夫が癌にかかってあっという間に死んでしまって。息子をかわいがってくれた優しい夫だったんな。それで息子を連れてその家を出てな。またまた苦労の連続。」

「わしは病気になって初めて皆さんにこんなに親切にしてもらって、本当に今が一番幸せな」

「先生、今度はいつ来てくれるの?」

 

私は言葉が出ない。胸が詰まって涙が出そうになる。

不幸になる人はとことん不幸になるなんて本当にあるのだ。

私は3人の娘を抱えて42歳の時45歳の夫をすい臓がんで亡くした。

自分はなんて不幸だろうとおもったけど、経済的には仕事を持っていたし、死亡保険や遺族年金で裕福になった。回りの人がみんな親切にしてくれた。そのうち自然に悲しみが消えていた。

 

ナミさんの知的障害の息子はちゃんと作業所で働いている。朝ナミさんのためにおにぎりを握って枕元に置いていく。

「今度は来週の月曜日に来ます。ちょっと間が2日あるからお腹がはるかな?食べ物をちょっと減らしてみてね。」

「うん。先生待ってるでね。頼むな。」うれしそうな笑顔が返ってくる。

 

ああ、訪問看護ステーションを開設してよかったなあ。亡き夫が応援していると確信する。

 

 

 

 ブログ再開します。来年77歳を迎える今村洋子の終活です。訪問看護の体験を小説にしてみることにしました。良かったら時々訪ねてください。

コメントで意見も聞かせてください。

 

 

 

| 今村 洋子 | 小説 | 14:06 | comments(0) | trackbacks(0) |
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